大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和41年(ワ)4427号 判決 1968年4月25日

原告

溝淵正敏

被告

有限会社豊嶋運送店

主文

一、被告は原告に対し三一〇、八〇〇円及びこれに対する昭和四一年九月一六日から支払済迄年五分の割合による金員を支払え。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

三、この判決第一項は仮りに執行することが出来る。

四、但し被告において二四〇、〇〇〇円の担保を供する時は右仮執行を免れることが出来る。

事実及び理由

第一申立

主文第一、二項同旨の判決並びに仮執行の宣言。

第二争いのない事実

一、本件交通事故発生

発生時 昭和四一年六月一日午後一時(天候雨)

発生場所 高槻市大塚町大塚信号燈附近

事故車 四輪貨物自動車 兵六い七三一四号

右運転者 村尾孫幸

被害者 原告(四輪自動車運転)

態様 原告は前記場所において対面信号が赤色であつたため停止していたところ事故車が突入してきて原告運転の四輪自動車(以下原告車という)の後部に激突し、よつて原告は受傷し、原告車は損壊した。

二、事故車の運行供用と村尾孫幸の雇傭関係並びに過失

被告は自己のために事故車を運行の用に供しており、事故車運転者村尾孫幸を雇傭していて、同人は本件事故当時被告の業務執行中であつたところ、本件事故は同人が事故車を運転して本件現場に差しかかつた際、前方の注視を怠たつたため、同車進路前方に対面信号燈の表示に従い停止していた原告車の発見が遅れて発生したものである。

三、原告の傷害及び原告車の破損の内容

原告は本件事故のため右手首骨折右前部頭部打撲脳震盪の傷害を受け、その所有する原告車は右後部バンバーフエンダー及び車体が大破した。

四、示談の成立

原・被告間に、昭和四一年七月三一日本件事故より生じた損害につき、被告は、原告車の修理費用については、修理施行者と話合つて支払う、原告の治療費、慰藉料、休業保障費については自動車損害賠償責任保険金の請求手続をなし同保険金受領後これを原告に支払つて当てる旨の合意が成立した。

第三争点

(原告)

一、損害

(一) 治療費及び通院費

第二の三の傷害治療のため昭和四一年六月一日、二日、六日及び同年七月一五日深井病院に通院して治療費五、五五〇円を支払い、同年同月二一日、二二日、二六日、二九日に大阪大学附属病院に通院し治療費四、四二〇円、通院交通費一、六八〇円を支払つた。

(二) 休業損

原告は熟練した大工として一日少くとも四、〇〇〇円の賃金を得ていたところ、本件事故のため昭和四一年六月一日から同年七月二二日迄五二日間休業した。よつて右期間中の賃金相当額二〇八、〇〇〇円の損害を受けた。

(三) 自動車修理代金

原告車の修理のため九一、一五〇円を支出した。

二、以上により、原告は被告に対し右(一)乃至(三)合計三一〇、八〇〇円及びこれに対する被告に対し本件訴状が送達された日の翌日である昭和四一年九月一六日から支払済迄年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

三、被告の示談成立に対する再抗弁

(一) 慰藉料、休業補償費、治療費につき、自動車損害賠償責任保険金の給付あり次第支払うとの約定は、そもそもそれ自体示談の内容とはなり得なかつたものであるから、本件示談中右部分は無効である。

(二) 被告は原告の本訴提起前の催告にも拘らず右示談契約を履行しなかつたから、原告は被告に対し昭和四二年三月一〇日到達の書面で示談契約を解除する旨の意思表示をした。

(被告)

被告は示談契約にもとづき、現在原告車の修理施行者と修理費用につき話合中であり、又前記保険金を請求中である。

第四証拠 〔略〕

第五争点に対する判断

一、原告の示談無効の再抗弁

本件示談契約中被告は原告の治療費、慰藉料、休業保障費については自賠保険金の請求手続をなし同保険金受領後これを原告に支払つて当てるとの部分については、自動車損害賠償保障法(以下自賠法という)一五条によれば被保険者である被告は、被害者である原告に対する損害賠償額について自己が支払をした限度においてのみ保険会社に対して保険金の支払を請求することが出来るものであるから、被告は原告に対して右治療費等の支払をしない限り例え自賠保険金の請求手続をしてもその給付を受け得ず、従つて自賠保険金受領後これをもつて原告に対する弁済に当てることは法律上不能というべく、前記示談部分は不能の法律行為を目的とするものとして無効と解するを相当とする。

従つて本件示談契約中原告車の修理費用に関する部分のみが有効と認められる。

二、原告の示談契約解除の再抗弁

そこで原告車の修理費用に関する示談契約の解除について判断すると、〔証拠略〕によれば、原告は本訴提起前に被告に対し示談契約を履行すべく罹告したが、被告は右示談契約を履行しなかつたことが認められ、そしてそのため原告が被告に対し示談契約解除の意思表示をし、右意思表示が昭和四二年三月一〇日被告に到達したことは本件記録上明らかである。

三、原告の損害

(一)  治療費及び通院交通費

〔証拠略〕によれば、原告は第二の三の傷害治療のため昭和四一年六月一〇日から同月六日迄深井病院へ、同年七月二一日から同月二九日迄阪大付属病院へ各通院し、治療費及び通院交通費として合計一一、六五〇円を支払つたことが認められる。

(二)  休業損

〔証拠略〕を併せ考えると、原告は本件事故当時一日少くとも四、〇〇〇円宛の収入を得ていたところ本件事故のため昭和四一年六月一日から同年七月二二日迄五二日間休業したことが認められるので、原告は右期間中の収入相当額二〇八、〇〇〇円の損害を受けたものと認められる。

(三)  自動車修理代金

〔証拠略〕によれば、原告は原告車の修理のため九一、一五〇円を支払つたことが認められる。

四、結論

以上により、被告は原告に対し右三の(一)ないし(三)の合計三一〇、八〇〇円及びこれに対する本件不法行為による損害発生後であること明らかな昭和四一年九月一六日から支払済迄民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべきであるから、原告の本訴請求はすべて正当として認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、仮執行並びに同免脱の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 亀井左取 西岡宜兄 大喜多啓光)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例